カディンチェ株式会社は、本日で創業より第10期を無事に終了できました。これもひとえに当社に参画して下さった社員やバイト、当社に業務発注を頂いたお客様、また各種アドバイスや協力を下さった友人・知人の皆様のお陰であり、会社を代表して深く御礼申し上げます。
当社はいまだに資本金が600万円ということからもわかるように自己資金で経営してきた会社です。自己資金でやるからには売上が会社存続のためには重要で、毎年黒字になるように先行投資や冒険もあまりせずにここまで来ました。エンジニアが主体の会社なので、研究開発・プロダクト開発には取り組んできましたが、それも開発の数カ月後には売れる、もしくは根拠となる研究助成金があるというのが開発の前提でした。まわりのスタートアップが第三者からの資金調達をして急拡大をしたり、早々にイグジットをしているのを見ると焦らないわけではありませんが、技術開発を通して「驚きを創り、世界に貢献する」のをビジョンとして、着実に歩んできました。その歩みのおかげで10年かけて、自立したチームが構築され、多くのお客様との取引にも恵まれ、自己資金でも今後攻めるための準備が整ってきました。
創業直後から屋内空間の3Dスキャン・3Dモデリングや、そこから形状情報を省いたパノラマ写真を使用したバーチャルツアーコンテンツやバーチャルツアー制作ツールの開発をしておりました。当時はまだバーチャルリアリティ(VR)がいまほど注目を集めておらず、社会的なニーズも少ない段階で、創業者2人のそれまでの経験や興味から始めた事業でした。ところが、2013年頃からOculus Riftなどのヘッドマウントディスプレイや、Ricoh Thetaなどの360度パノラマカメラが発売され、市場のニーズも増加したことは、当社にとっても追い風になりました。そんな過程で360度動画のコンテンツマネージメントシステムであるPanoPlaza Movieと、360度動画のライブストリーミングシステムであるPanoPlaza Liveを公開し、それらシステムのOEM販売をしたことが、現状の事業の柱になっています。井の中の蛙が、井戸の中で遊んでいたところ、地上から水が入ってきて井戸が溢れ、大海に泳ぎだしたみたいな印象です。
自己資本にこだわってきたのは、エンジニアやエンジニア出身者による意思決定を大切にしたいという理由からでした。当社創業者二人は、メーカーの研究所出身なのですが、その前職の会社の設立趣意書には「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」とありました。カディンチェもそんな理想を追求したいと日々考えています。営利企業である以上、売上の拡大や経営の効率化といったいわゆる企業経営はもちろん必要ですが、なんでもかんでも儲かれば良いではなく、技術開発の過程を楽しみ、その成果をお客さんやユーザに提示して社会的に役立ちたい。目立たなくてもよいし、大儲けしなくても良いけど、社会を裏で支えるような工場(こうば)でありたいです。
これらを踏まえて、第11期以降は特に以下を意識して活動していければと思っています。
PanoPlaza Movie / Liveのような自社製品を作り、OEM販売したり、関連技術開発をしているわけですが、ニーズが高まるほど、製品のカスタマイズを含めたマーケットインでの受託開発が増えてきます。お声がけは大変ありがたいですし、社会実装数も増えて嬉しいのですが、日々進化する技術を使った新しい製品開発が手薄になりがちです。第11期以降はPanoPlazaシリーズを強化するとともに、360度動画にこだわらない新規プロダクトの企画・開発を進めます。バーチャルリアリティ、リアルタイムコミュニケーション、3Dメタバース、モーションキャプチャ、3Dセンシング、デプスライブストリーミングあたりが当面のキーワードになります。
2018年2月にシンガポール支社を設立しましたが、まだまだ本格稼働できていません。米国zSpace、デンマークMilestoneといった海外企業との連携やそれら製品の利用、アジアのオフショア先企業、シンガポールや中国といった営業先など、日本に留まらない活動をしたいと思っています。これまでの短期的な出張ベースではなく、駐在・支社設立も含めた腰を据えた海外展開ができるようにがんばります。縮小する日本市場だけでは物足りないというのも理由ですが、それ以上に本当に価値のある会社なら、世界にも貢献できるはずですし、多様性をもった色んな人と働きたいのです。当社にはすでにベトナム人技術者が一人在籍してくれていますが、社員としての国際多様性を進めるのもありですね。
2018年8月下旬には発表できると思いますが、某社との合弁会社が進んでいます。当社が技術開発を担当し、ある業界での事業開発を目指しています。また、それ以外にもいくつか当社から出資や協業といった可能性も出てきました。カディンチェ本体では引き続き出資等は募集しませんが、合弁会社や出資先会社ではもっと柔軟な動きができそうなので、新たな動きとして楽しみです。過去10年で築いてきた各種リソースを有効活用・投資していければと思っています。
引き続き、カディンチェ株式会社をよろしくお願いいたします。
2018年7月31日 @ カディンチェヒルズこと西小山のビルの一室より
カディンチェ株式会社 代表取締役 青木崇行