東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部・部長 住谷昌彦准教授との共同研究で、VR技術を用いたがん患者さん向けピアサポート・遠隔フィットネスシステムの実証実験を実施
医療現場において同じ病気を経験する患者さん同士で悩みや不安を共有し、その後の人生を前向きに送る知恵や情報を共有しながらお互いに支え合う「ピアサポート」が特にがん患者さんを中心に広がっています。
通常は患者会や医療機関による会合が中心でありましたが、昨今の新型コロナウィルス感染症の蔓延により対面機会を設けることが困難となったため、SNSやチャットなどインターネット上での機会が増えてきています。
しかしSNSやチャットなどでは対面型に比べて患者さん同士の交流が希薄になりがちで、またヨガや体操などの体験型プログラムは実施できず物足りなさを指摘する声も聞かれます。
そこでVR技術を駆使することで、遠隔的な参加でありながら、あたかも対面しているかのような錯覚を与えつつ匿名性を担保した交流を可能とし、さらに運動体験まで可能な仮想空間の開発を進めています。
「VRがんピアサポート」には、主に2つの機能があります。
1)遠隔にいる方々(実験ご協力者)と会話や手の動きを通して交流できる機能
2)フィットネス(上肢運動)を仮想空間(3D CG)上で実施できる機能
どちらの機能も、同じ仮想空間内で実行可能なため、1)と2)を合わせて「会話や手の動きを共有しながらフィットネスをする」といったことも可能です。また、フィットネスは“日替わり”で、「ストレッチ」「ボクササイズ」「体幹」などを用意し、それぞれのフィットネスに応じた3D CG空間を用意しています。フィットネス中に表示されるトレーナーの模範体操は、モーショントラッキングで計測した動きを3D CG空間で表示しました。
この度、開発段階から監修いただいている東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部・部長の住谷昌彦准教授にご協力いただき、その効果性について検証すべく東京大学医学部付属病院にて実証実験を開始する運びとなりました。
実証実験の実施にあたり同病院受診中のがん患者さん数名にご参加いただき、参加者にはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を貸与して自宅へ持ち帰っていただき、仮想空間内で用意された運動プログラムへの参加と、参加者同士の交流機会への参加を求めていき、実験前との変化について検証しました。
実証実験での検証結果を基に、より患者さんのニーズに合った機能の実装をさらに進めて実用化を目指してまいります。また今回のがん患者さん向けの取り組みを一つのロールモデルとして、将来的にはその他の疾患や怪我、シニア層の介護予防領域への応用展開も考えております。
以上の研究開発に加えて、弊社ではシニア層を中心に在宅における運動の習慣化を推進すべく「オンラインセルフフィットネスシステム」の開発にも力を入れており、高齢化が進む昨今において一人でも多くの人の健康維持・増進に寄与すべく今後も引き続き取り組んで参ります。
日本を含め欧米先進国では、がん(癌)を患う患者さんが年々増加しており、日本では2人に1人ががんを経験します。医学の進歩によりがんの治療成績自体は向上していますが、がんを患ったことによって生じる様々な不安や生活上の困り事は病院や診療所などの医療者だけでは解決できないこともあります。さらに、がん治療を無事に終えられた患者さん達でも、体の不調や不安が長引くことが少なくありません。
私たちは、緩和ケア・支持療法の専門医として患者さんが抱える様々な問題の診療を担当し、がん治療医と協力して一人一人の患者さんにとって最適ながん治療を無理なく続けられることを目標に診療しています。また、がん治療終了後の患者さんに対しても治療介入を行っています。
このような私たち医療現場での診療とは別に、がん患者さん同士がお互いに支え合うピアサポート(がん体験者による相談)が、医療では埋めきれない患者さんのがんに関わる悩みへの支援として広がってきています。国内でも多くのピアサポート活動が普及してきましたが、まだまだ「遠方で通えない」、「直接、他の患者さんと交流するのは気恥ずかしい」、「まずは少しだけ覗いてみたい」といった患者さんの声をうかがうことが少なくありません。
そこで私たちは、がんの患者さん達にもっとピアサポート活動に参加していただけるようなVR(バーチャルリアリティー=仮想現実)がんピアサポートを共同開発しました。VRにより物理的な移動距離は解消されて、患者さんが自分の好きな場所で参加することができます。またアバター(ヒト型モデル人形)を用いることで、直接対面での気恥ずかしさはなく、間接的であっても活き活きとしたコミュニケーションをとることができます。
さらに、私たちがVRがんピアサポートを通じてがん患者さんに提供するのが「フィットネス」プログラムです。日常生活での運動習慣は、がんの発症や再発リスクを軽減できることや、がん治療に伴う副作用の軽減効果があることが分かっていますが、「運動が良いのは分かっているけれども始める切っ掛けがない」、あるいは「始めたけれど3日坊主だった」ということもまた真実であろうと思います。がん緩和ケア・支持療法の専門医の立場からはがん患者さんには少しでも良いので毎日運動していただきたいとの思いを持ち続けており、それをVRがんピアサポートで実現したいと考えています。
患者さんが、がんを抱えながらも、そして、がんを卒業後にも、溌剌とした生活を過ごして頂くために、患者さんご自身でできる健康マネジメントに是非取り組んで頂きたいと思います。
株式会社Gleam Bridge(事業企画)
株式会社ユニバーサルトレーニングセンター(エクササイズメニュー監修・モーションアクト)