2024年10月に松竹株式会社とカディンチェ株式会社が運営している「代官山メタバーススタジオ」にてバーチャルプロダクション検証動画の制作を行いました。
今回の動画は第3回目の検証企画となり、「どのような映像を制作できるか」「映像制作におけるソフトウェアの使用方法、運営の仕方の確認」「その他技術的な検証」を目的としています。
なお、動画はYoutubeにて公開中です。
動画のタイトル「静中の動」が示すように、”静けさ”とその中のにある”動きの力強さ”に焦点を当てた、時代劇風の鍛錬および決闘シーンを描いています。
1. In-Camera VFX
映画や映像制作で使用される技術で、LEDディスプレイにリアルタイムで背景やエフェクトを表示し、それを撮影することで特殊効果を直接映像に組み込む方法です。Unreal Engine等のゲームエンジンを活用し、従来のポストプロダクションを大幅に簡略化できます。
今回は弊社が所有する横幅約7m、高さ約2.6mの大型LEDディスプレイを使用して撮影しました。
2. グリーンバック撮影
被写体の背後にグリーンバックを設置して撮影し、その緑色部分を後処理で透明化して別の背景と合成する手法です。
撮影の一部では、全身を映す必要がありましたが、弊社所有のLEDディスプレイは1枚のみで、In-Camera VFXでは画面外が見切れてしまう問題がありました。
その課題を解決するために、グリーンバック撮影を採用し、全身を収めた映像制作が可能となりました。
ただし、小道具の金属部が背景の緑を反射してしまい、クロマキー合成の際に一緒に消えてしまう現象や、照明が天井からの白い照明のみになってしまうため照明演出ができません。そのため、ポストプロダクションの段階で調整する必要があります。
今回は現役の役者2名に侍役と忍役を演じていただきました。
小道具は、軽量で頑丈なジュラルミン合金製の刀や、アルミ製の苦無を使用し、刀には血のりを施して臨場感を出しています。
背景映像は「Unreal Engine 5(UE5)」を使用して作成し、「Pixotope」でLEDディスプレイに投資しています。
背景映像は、鍛錬のシーンと決闘のシーンの2種類を用意しました。
1. 鍛錬のシーン
UE5のマーケットプレイスで販売している道場風のアセットをベースに、全方位の作りこみを行い、青白いライティングを施して夜の静かな雰囲気を演出しています。
2. 決闘のシーン
鍛錬のシーンと同じデータを複製し、炎のエフェクトや倒れた柱等を追加して室内が燃え広がっているような荒れた状態を表現しました。
単に炎を追加するだけでは現実のスタジオ内の証明と違和感が出てしまいます。
そのため、「Point Light」を使用してシーン内の明るさや色味を調整しています。
炎の数を増やし、木材を起点として燃え広がっているように作りこみました。
スタジオ内の照明は、四方に赤と黄色のチューブライトを配置し、点滅効果を加えることで、全方位から炎に照らされているような雰囲気を演出しています。
当初、天井に吊るした照明をDMX信号で点滅させようとしましたが、単純なON/OFFのみになり無機質な印象になりました。
そのため、床にT字に組んだ照明を設置し、明るさがフェードで変化するエフェクトを採用しました。
こうすることで、床から炎が不規則に揺らめくような効果を生み出しています。
小道具に使用している武器は、照明の光を反射しやすく、In-Camra VFXならではの光と影の見え方を活かしています。
グリーンバック撮影では照明をフラットにしがちですが、刀や苦無の輝きと陰影のコントラストをより自然に表現できています。
1. 高画質化
鍛錬のシーンは暗い環境下での撮影となり映像全体がぼけてしまいました。また、役者の顔や体にノイズが入る問題が発生しました。
これらの問題を改善するために高画質化AIを使用して画質を向上させました。
ただし、高画質化に伴い背景のボケ感も消失してしまったため、Adobe After Effectsのロトブラシ機能を活用し人物のみを切り抜き、背景は元の動画のみを使用しました。
人物のノイズを除去することによって、より綺麗でくっきりと映り、背景はボケ感があることで奥行き感を残すことができます。
2. エフェクト追加
決闘のシーンでは、カメラ距離に応じて火の粉を上から合成し、映像に奥行きと臨場感をもたせました。
望遠のシーンでは大きめの火の粉、広角のシーンでは小さな火の粉を入れるなど、シーンごとに調整を行っています。
以上が、バーチャルプロダクション検証として制作した時代劇風動画「静中の動香」の概要および技術的なポイントです。
LEDディスプレイを活用したIn-Camra VFXとグリーンバック撮影の組み合わせは、映像表現の幅を大きく広げる一方で、機材やライティング、ポストプロダクションなど多岐にわたる検証項目があることが改めて確認できました。
今後もさらなる技術検証を行い新たな映像表現の可能性を探っていきます。